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ポルトガル便り・第41便 アルガルベの冬

私達が住むオリャウンは、アルガルベ(Algarve)という地方に属しています。これはポルトガルの南端・言ってみれば日本の九州に相当する地域です。【ポルトガルの本土はほゞ北緯37度〜42度に有り、日本で言えば黒磯から函館の間に該当します。】 アル ガルブ(al garv )とは、アラブ系の言葉で“西の方”を意味します。(アルは冠詞、ガルブは西を意味する。)スペインのグラナダにムーア人の本拠が有った頃に、この地域は西の拠点だったという歴史を思い起こさせる地名ですね。イスラム系の民族が400年間住んでいたこの地域には、アルブフェイラ(湖)・アルカスル(宮殿)など、“アル”で始まる地名が沢山あります。  さて、このアルガルベ地方の冬を彩る特徴的な事の一つはキャンピングカーです。オリャウンの町は、夏には太陽を浴びに来る人達で一杯です。この時期は若者や家族連れが多く、オリャウンの町を拠点にして島に渡ってキャンプをしたり、近隣の町を訪ねたりして夏休みを楽しみます。しかしこの賑わいも夏休みが終わり秋が来ると、潮が引いたように静かになります。 そして冬になると、今度はキャンピングカーが次々にやってきます。夏場とは異なり冬場にキャンピングカーで現れるのは私達と同じ年代で、時間がたっぷりあるリタイア組の老夫婦が殆んどです。オリャウンの旧市街から一寸はずれた所にキャンピングカー専用の有料の施設があり、そこにはスーパーも有って一年中50台位の車が停まっています。ここには長期に滞在する人が多いようで、彼等はテレビは勿論のこと冷蔵庫や洗濯機なども持って生活を楽しんでいます。

駐車場を占拠しているキャンピングカーの群れ

しかし冬場に来る人達は、専用の施設ではなく主にガラガラになっている海岸に近い駐車場にキャンピングカーを並べます。此処には電気や水道の設備も無いのですが、駐車料金は無料です。この種の人達は短期間で移動してゆくようですが、その数はこれも50台近く有ると思われます。私達が顔を出す喫茶店ベラ(便り・36便)では、海の景色が楽しめ・料金が安い事もあって、冬場はこの種の旅行者が沢山たむろし、傍には毛穴が開ききっているポルトガル人がセーターやジャンパーなどを着込んでコーヒーを飲んでいるのに、半袖姿で太陽を浴びながらビールを片手に長時間お喋りを楽しんでいます。一寸話を聞いててみると、イギリス・ドイツの北部・北欧などからの人達が多いようです。寒くて暗い冬を過ごしている地域から来る彼等にとっては、太陽が顔を出し時には20度近くまで気温が上がるオリャウンでの冬は天国のように感じられるそうです。                      

北から来ている元気な人達
 

  もう一つの話題は雨です。この地域はマルセイユ・バルセロナなどの続きに位置しているので、気候は地中海性気候の特徴を持っています。夏は極端に雨量が少ないので、今でも塩田で海水を取り入れ天日で乾かすという、昔ながらの方法で塩を作っています。(4月〜9月の間の降雨量は、月間で平均1センチでしかありません。)一方冬は雨季となり、11月中旬から2月の初め頃まで良く雨が降ります。(月間降雨量は月10センチ程度。)

 以前・便り27便にも書いたように、我が家は天井も高く又屋上からはコウノトリの巣が見えるなど、なかなか優雅な生活を楽しめる良さが有るのですが、雨には全く弱く、毎年雨漏りに泣かされています。

覆われた通気口

  今年は特に雨の量も激しさも特別だったようで、時々バケツをひっくり返したように雨が強く降る時などは、夜中でも飛び起きて対策に大童で走り回りました。ポルトガルの伝統的な建物には自然排気の通気口が有るのが特徴の一つなのですが、今回はその通気口が大量の雨漏りの原因の一つになりました。この通気口をビニール袋で覆ったり、2階のテラスにビニールシートを敷いたり、屋根瓦のひび割れ対策としてゴムシートを敷いたり・・・・。 夜中に強い雨が降ると、特にうんざりしていましたが、1月の15日頃にはどうやら峠を越えたようで、ほっと胸をなで下ろしています。 どうやらオリャウンの家はどれも夏向き・乾期用に出来ているようで、殆んどの家に風呂は無くシャワーだけですし、強い雨は降らないものと決めているようです。隣に住むイザベルさんに「我が家は雨漏りで大変なんだよ。」とこぼしたところ、「うちだってそうよ。こんなに強く降ったら、しょうがないじゃない。」と言っていました。   一方野原に目を転じると、面白い事に夏は牧草が枯れるので野原が茶色になるのに、冬は一面緑に覆われ美しく変身します。まず12月になると、小さな黄色い花があちこちの野原で顔を見せ始めます。これは日本では“馬肥やし”というセンスの無い名前で呼ばれているようですが、ポルトガルでは Santa Noite(聖なる夜)という美しい名前を持ち、やがて野原がこの黄色い花で一杯になる様は、昔・春先の日本で田畑が菜の花やレンゲの花で覆われていた風景にそっくりです。もう一つ目を引くのが春菊です。こちらの人は春菊を食べないので店では売っていませんが、野原には野生の春菊が沢山生えています。秋から暮れにかけて私達はこれを採って鍋を楽しむのですが、2月の後半になるとこの春菊が白い花を咲かせて広い野原が一杯になります。

Santa Noite の野原
春菊が咲き乱れる野原
Santa Noite の花

野原が緑に覆われる頃には、路傍にアロエやポインセチアの花が咲き、2月になるとアルガルベの名物であるアーモンドの花も咲き始めます。丘陵に沢山のアーモンドが咲き誇るさまは日本の桜の景色に似ており、「あゝ、もう春なのだ」と教えてくれます。実際   アーモンドが咲く頃には気温も上がり、春がやってきます。 このように、冬でも花が絶える事なく咲き、私達の目を楽しませてくれるのですから、この国には“冬枯れ”という言葉は無いでしょう。冬は緑豊かな季節なのです。                  2010年 1月     【 征 二 】

 
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