ポルトガル便り・37便 合唱団に参加しました
今年の5月から、やっと地元の合唱団に参加して歌をうたっています。私にとって、“欧州に住み始めたら合唱団に入ろう”というのが一つのテーマでしたから、7年が過ぎてやっと懸案が実現したというわけです。
今までも合唱団探しは随分しました。地元の合唱祭や演奏会にも何度も足を運んだのですが、適当なグループが見つからず実現しませんでした。聞きに行った殆んどの合唱団が、親睦中心なのだろうと想像され音楽的に魅力が無かったからです。
今度見つけた合唱団は、サンブラスという約20KM程離れた町で活動していました。団員がおよそ40人の混声合唱団です。市の図書館を練習会場にしている地元の合唱団なのですが、ポルトガル人はあまり多くなくてドイツ人・イギリス人などの外国人が圧倒的に多いグループです。指揮者はウォルター(Walter)さんといって、私と同じ年代のドイツ人。長らく教会でオルガンを弾き・合唱を指導してきている人。ですからバッハとかシュッツなどの古典作曲家が作った、宗教的な音楽が得意のレパートリーのようです。
団員には若い人が少なく、中高年層が圧倒的に多いです。退職して暖かいポルトガルに移り住んで来た人。まだそこまでの年にはなっていないが、何らかの理由で、南のポルトガルに居を求めて来た人達のようです。団として活動を始めてから、まだ3年しか経っていないそうですし、違う国からばらばらに集まった人達なのに、古くから一緒に活動してきた人達同志のように仲が良く、いつも楽しい雰囲気が一杯です。自分の人生を充分に生きてきた、強い自信と誇りを持っている人達の集まりなのでしょう。この合唱団の特徴である“明るさ”の秘密は、こんなところに有るのかもしれません。
日本の合唱団活動には少し教養的な匂い、“学ぶ・努力する”という局面が有るように思いますが、この合唱団の人達には“遊んでいる・楽しんでいる“という雰囲気が強いですね。「ウォルター!(指揮者に対してもファーストネームで呼びかけている。)ここのフレーズの棒の振り方が判りにくいのだけど。」などという声が、練習中にもどんどんかかっています。
私が初めて参加した日の練習は、メンデルゾーンの曲とオランダとスウェーデンの民謡でしたが、後の2曲についてはそれぞれオランダ人・スウェーデン人の団員が発音指導をするという楽しい経験でした。
練習の進め方でも面白い経験をしています。まず楽譜がパソコンで配信され各々自分でプリントアウトしてくる。楽譜と同時に、指揮者が弾いたパート別の音取り用のメロディーも配信されるので、基本的には音取りの練習はありません。とは言っても練習の中でパート別に歌わされ、音の確認・歌い方の指導・要求などは勿論有ります。
練習の初めにはシルビーさんという女性によるウォーミングアップがあるのですが、面白かったのは“ドレミファソー”の代わりに、“ワンツースリーフォーファーィブ”と歌う事です。それはそれで判るのですが、言葉(ワンツースリー)と音程とが頭の中で結びつかず、この発声練習の時間には私はいまだにまごまごしています。
この合唱団の泣きどころは、テノールが少ない事。バスには声も出るし、賑やかで楽しい男性が沢山います。その一人は囲碁が大好きで、私の顔を見ると「今日は!」と日本語で声をかけてくれます。なんでもポルトガル中の囲碁好きのネットを作り、元締めをやっているらしい。然し日本へは行った事が無いそうです。一方テノールは2〜3人しかいない。そこで低い声が出る女性(コントラアルト)がテノールのパートを一緒に歌っています。艶のある美しい声なのですが、高い声に特有の張りと輝きが無いのは残念な事です。
もう一つ感じる事は、喉を詰めた声の人が殆んど居ないことです。声楽の訓練を受けた人はいないようで、高い音になると俄然声が痩せてしまうのですが、喉を締めた声を聞く事は殆んどありません。畳や障子に囲まれた家で育った日本人とは違うものだと感心しています。
5月に参加して7月の中旬にはもうステージを経験しました。日頃練習会場として図書館の会議室を使わせて貰っているのですが、その図書館の職員や利用者の人達にお礼をするという趣旨の、小さなコンサートでした。図書館の中庭にステージを作り、終了後はそこがパーティー会場です。皆が持ち寄った手作りの一品とワインという楽しい雰囲気の夏の夜でした。
そして現在は2ヶ月の夏休みで、秋になって木曜日の夜の練習が再開されるのを楽しみにしています。
2009年 8月 【 征 二 】
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右の端が指揮者のウォルターさん |