ポルトガル便り・33便 おさいふ事件
時期がずれてしまい、暑いさなかに冬の出来事で申し訳けありません。ポルトガル便りに未だ書きそびれている、我が家の事件をお知らせします。昔のコマーシャル“サマーサンタがやって来た”の仲間だと思って、ご一笑ください。
2007年12月31日・大晦日のことです。こちらのお正月の祝日は1月1日だけなのですが、お店によっては数日休むところもあるので、いつもの市場に買物に行くことにしました。
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閉店まであと僅かの午後1時ごろの事です。野菜は、実直な人柄を感じさせるフランシーリアさんのお店でよく買います。トマト・ブロッコリー・玉ねぎなどを買い、重い荷物を下げて家に戻りました。2時間ほど後に夫が、「財布を君に預けてなかったかなー」と言います。「預かってませんよ。」という事で大騒ぎが始まりました。
落としてきたかもしれないと、夫は市場の帰りに通った道を逆戻り。私は家の中の目ぼしい所を捜します。暫らくすると夫はガッカリした様子で帰ってきました。すでに市場は閉まり、清掃の人達が入っていたそうです。事情を話し中に入れて貰い一緒に捜してくれたけれど、見つからなかったという事です。もう一度家の中を捜してみようと、二人で必死に捜します。でも出て来ません。
フランシーリアさんのお店でお金を払い、荷物を受け取ったところまでは記憶にあるが、その後どうしたかは覚えていない。道で落としたか・・。店に置き忘れたか・・。市場の中で落としたか・・。と色々と思いを巡らします。
「現金はいくら入っていたの?」「机の中を整理していたらお金が出てきたから、いつもより沢山・・。」ほかには運転免許証・マネーカード・居住証明書が入っていたようです。“お金以外の物は別のところに入れるようにしていたのだけれど、ついつい面倒なので”と、彼は反省する事しきり。
色々と考えたすえに警察に届ける事にしました。担当してくれたフェレイラさんはとても親切な人で、こちらの言う事をゆっくりと聞いてくれます。「お金はいくら入っていたの?」「400ユーロぐらい。」私は“エーッ”と、まじまじと夫の顔を見る。「そんなに沢山のお金を財布に入れとくものではないですよ。」と注意を受けます。免許証の再交付に必要な書類を作成してくれ、マネーカードをストップするには何処に電話をすれば良いか等、調べて教えてくれます。けれども警察官の人達から受ける感じでは、「現金が沢山入っている場合は、出てこない可能性が強い。」と言っているように思いました。諦めなければという気持がだんだん強くなる一方、心の何処かで“八百屋の小母さんが財布を保管してくれていて欲しい”と甘い期待もしているのです。
財布の中身を見れば電話番号も住所も判るはず・・・。夜の12時近くに玄関を叩く音がしました。“きっと八百屋さんだー”と二人が明るい気持で走り出ます。しかし、それは暮のプレゼントを持ってきて下さったフランス人のIさん達でした。
一月一日。財布を無くした事の重大性をひしひしと感じてきました。実は居住証明の延長手続きの為に、1月4日に書類を持って外人登録事務所に行く予約が出来ています。今までの証明書を紛失している場合はどうなるのでしょう。免許証やマネーカードの再発行の手続きも大変です。(なんと言っても此処は外国です。)道で落とした場合は・・。市場で落としたら・・。たとえフランシーリアさんのお店で落としたとしても、後のお客さんが気がついたとしたら・・。悪い事ばかりを想像して、新年を迎える喜びも吹き飛んでしまいました。
一月二日。市場が開く時間を待って、取るものも取りあえずフランシーリアさんのお店に向かいます。有りました。有りました。矢張り見つけて取っておいてくれたのです。重い荷物を小母さんから受け取る時に、無意識に売り場の野菜の上に財布を置いてしまったようです。「トマトの上に置いて有ったの。」とニコニコ顔です。「お金が沢山入っていたので、びっくりしたわよ。」
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そして夫の嬉しそうな顔。やっと幸せな新しい年がやって来ました。
フランシーリアさん有り難う!
これから野菜はみんな貴女のお店で買わせて戴きます。
ポルトガル人の友人Nさんのお母さんが長年ここで買物をしているという事で、それから私達も行き始めたお店です。正直者で通っているようで、お客さんも多く繁盛しているお店です。彼女は口数が少なくお客さんが話すのを聞くタイプとお見受けします。けれどもこの事件以降暫らくの間、私達が買物に行くと、「財布を無くしたのはこの人達よ。」とお客さん達に説明を始めます。教えられた人は「どうも・・。」私も「どうも・・。」が続きました。今までいっかいの買い物客でしかなかった私達にフランシーリアさんは親愛の情を示してくれるようになり、とても良い関係が続いています。警察官のフェレイラさんとも、この事件のお陰で知り合いになりました。
2008年8月 【 孝 江 】。