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ポルトガル便り・27便  オリャウンの家

 すでにお話した事ですが、私達が今住んでいるのは長屋です。オリャウンという人口が約4万人の町の中心部に小さな旧市街があり、私達はその旧市街のまさに真中に住んでいるというわけです。
 しかし長屋と言っても広うござんして、間口が5メートル・奥行きが19メートルですから、一階だけで95m2有ります。表通りの入り口が玄関・裏口がサンルームになっていて、この裏口も又もう一つの通りに面している。多くの場合は、表通り側と裏通り側とが別々の家になっているので、言ってみれば二軒分を占領している感じです。
 家主さんは当時オランダに住んでいたスコットランド人の女性で、暖かい南ポルトガルにセカンドハウスとして購入したようです。ところが社命でインドへ転勤となり、当分セカンドハウスとしては使えないから人に貸そうという事になったようです。実は私達はこのロージー(ロザムンド)という可愛らしい名前を持つ大家さんには会った事がなく、その友人で矢張りスコットランド人の女性との契約という形をとっています。
オリャウンの街
 ポルトガルの町の景色と言うとリスボンの家並みに代表され、美しいレンガ色の屋根を思い出す方もいらっしゃるでしょうが、オリャウンの旧市街は白一色。モロッコの町を 想像して頂ければよいと思います。実際20年も前のこの町はモロッコと同じだったと言われています。イスラムの影響がまだ色濃く、「その頃には、夜・女性は外出する事も認められなかったのよ。」と友人が説明してくれました。
 さて家のことですが、特徴の第一は天井が高い・床が絵タイルである・壁が土壁で特別厚く出来ているという事です。要するに夏の暑さを意識して作られた家なのです。100メートルほど離れた家の壁には銘板があり、“この家は1884年に作られた”と書いてある。そこから更に150メートルほど離れた家には“1798年建築”と書いてある。私達が住む家も作り方や雰囲気がよく似ているので多分100年程度の古さを誇るものと思われます。しかし家主のロージーが買った時に設備に金をかけてくれたようで、水周りも近代的・ガスは都市ガスが入っているし電気の容量も充分に大きく、快適な生活が出来ています。
 一階の天井の高さは4メートルを越え、とても美しい装飾が施されている。従って二階へ行くには一段が20センチの階段を23段も上らねばならず、慣れない頃はうんざりして途中で休憩が必要だった。
 二階は一部屋と大きなトイレ室が有るだけで、他は広いテラス(一階部分の屋上)になっている。一階の各部屋の天井がドーム型になっているのをそのまゝ反映して、テラスといっても平らな部分が少なくドームの曲面になっているのが面白い。夏にはこのテラスで夕食をと洒落こむのだが、テーブルをセットするのに一苦労。広さは有っても使いにくいのがご愛嬌である。
 三階にはもう一部屋有り、その上に更に見晴らしの良い8畳ぐらいの広さの屋上が有る。海も山も見え、冬場は海の方向・水平線から太陽が昇るのを楽しむ事が出来る。そしてこの家の特徴で忘れてならないのは、この屋上からコウノトリの巣が見える事だ。コウノトリは本来渡り鳥なのだが、この地は暖かく又餌になるものが豊富なので定住している。我が家から200メートルぐらいの範囲に3つの巣が見え、何れの巣にもつがいが住んでいるので、朝起きて“おはよう”と声をかけるのも私の楽しみの一つになっている。
 引越しをする時には予想もしなかった事なのだけれど、音響効果が素晴らしいという楽しみが出来た。食堂と応接間が続いているので、3m X 10m・高さが4.5m有るオーディオルームとなるわけだ。私が持っている装置は特別なものではないが、こゝでバッハのパイプオルガンやベートーベンの交響曲などをたっぷりとした音で鳴らすと、ドーム型の天井から音が降ってきて家中が音の祭典となり、幸福なひと時を過ごす事ができる。嬉しい誤算であった。
 この家のことで不思議に思う事の一つは防犯対策だ。一般にポルトガル人は鍵が大好きで何回も何回も回して閉める、これぞ鍵の王様だという風情の錠前が使われている。この家も例外ではなく、玄関の扉には立派な錠前がある。しかし不思議なのはテラスの事だ。どの家も隣の家のテラスとは1.5メートル位の高さの壁があるだけ。その気になれば簡単に隣に侵入できる。実際猫達はどの家のテラスにも自由に出入りしている。そして此のテラスはもう家の中と同じで、テラスから家の中には実に容易に入る事が出来る。一応扉は有るのだが、プロにとっては無きも同然なのだ。しかし我が家には盗むほどの物は何も無いので気楽にしている。そういう意味ではオリャウンのオールドタウンでは、盗まれる心配をしながら生活をしているのは商店街の人だけかもしれない。盗む立場で考えれば、同じアルガルベでも、開発された西地域にある“ゴルフ場付き高級住宅街”こそ、ターゲットとして相応しいという事になるに違いない。
 という具合で、私達は日本では経験できない不思議な世界での生活を楽しんでいる。表通りと言っても、両側についている歩道を含め5.7メートルしか道幅が無い。しかも一つの道の中で道幅が狭まったり広がったりし、更に自由に蛇行しているのだ。そして向かい側も同じような長屋になっている。長屋なので各家には駐車場は無く此の道が駐車場でもあり、誰でも何処にでも停めることが出来る。常に縦列駐車で一杯になっており、残りの狭い幅の道を車が徐行して走る。当然一方通行である。外出から帰ってきた時に、“今日は家の前に駐車が出来るだろうか”という事がとても気になるところ。車が停まっていたら、他の家の前の空間を探して駐車せねばならず、買物をして荷物が多い時など結構大変な事になる。しかし車がいたずらされたという話は聞いた事がないし、その不安を感じないで済むのも不思議な町だ。 2007年 4月 ( 征二 )

 
       
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