ポルトガル便り・23便 東欧三国を訪ねて
今回東ヨーロッパの三つの国を訪ねたので、その感想などを報告させて頂きます。尤もポーランド(ワルシャワとクラコフ)は6泊ですが、チェコ(プラーハ)2泊・ハンガリー(ブダペスト)2泊という駆け足旅行なので、ゆっくりと観察が出来た訳ではありません。しかし欧州の西はずれの国ポルトガルと東の端の国々という対比では、興味深い世界を見る事が出来たと思います。
街に出てまず感じたのは容貌の違いです。混血が進んでいる現代では、国名と顔の特徴とを一言で言い表す事は困難ですが、ルジタニア人と呼ばれる人々を中心とした民族とアラブ系との混血が多いポルトガル人と、スラブ系や蒙古系を中心とした東ヨーロッパの人達では、やはり表情も雰囲気も大きく異なります。ポルトガルに住む事に慣れてしまった私達にとっては、久し振りに“外国に来たな”という感じが致しました。
最初の国ポーランドで一番感じた事は、外国人に対する無愛想さです。外国生活をしている私達は、日頃お邪魔している・住まわせて貰っているという気持があるので、見知らぬ人に対してもこちらから声をかけ・挨拶する事を心がけています。ポルトガルでは殆んどの場合、これに対して笑顔と親しみを込めた言葉が返って来るのですが、ポーランドではジロッと見て無視される事がしばしばあり、こちらの笑顔が宙に浮き行き場が無く困りました。と言っても悪意のある対応をされた事は全くありません。想像するにドイツ・ロシアを始めとする外国に痛めつけられ続けた歴史が、外から来た見知らぬ人に初対面から笑顔を振りまく事をポーランド人に忘れさせたのではないでしょうか。同行した友人が、ポーランド人についてアメリカではこんなジョークがあると教えてくれました。柱の高さを測る必要があった男(ポーランド人)が、梯子に登ってその高さを測ろうとしていた。一緒に居た男が「柱を横に寝かせて測れば良いじゃないか」と言ったところ、「俺は高さを測る訳で、幅を測るわけではない」と答え、その仕事を続けたそうです。融通が利かず、愚直なまでに真面目なポーランド人という訳なのでしょう。私が受けた印象もそれに近いものが有ります。
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ワルシャワ公園 |
ワルシャワの町には緑が多いのにも驚かされました。一寸したアパートの周辺には公園と呼ぶに相応しい空間があり、背の高い木が生えて人々の憩いの場となっています。そして第二次大戦でその殆んどを破壊された町を、市民の手で昔どおりの形に復元したという旧市街はとても美しく、その広場で飲むコーヒーは又格別の味がしました。ワルシャワ歴史博物館には新旧市街の写真や設計図が展示されていましたが、心を揃えこゝまで復元させた市民に拍手を贈りたいと思います。
ご存知のようにポーランドはナチスドイツによる抑圧に抗して、1944年にワルシャワで市民が蜂起し、結果は20万人の死者を出し敗れた歴史があります。町にはその記念碑・彫刻・当時を偲ばせる印などがほうぼうに置かれていて、今でもその歴史が持つ意味・重要性を教えてくれます。日本でも広島と長崎には原爆記念館や記念碑が有りますが、戦争全体を総括し・次世代にメッセージを伝えるような企画が、東京や大阪に必要なのではないでしょうか。首相が靖国神社に参拝し、憲法違反を問われたり・近隣の国々とぎくしゃくする前に、何故日本が戦争への道を歩んだのか・どういう事が実際に起こったのかを次世代に伝える努力をしようではありませんか。人々が考え・忘れないようにする仕掛けが必要だとおもいます。小泉さん、宜しくお願いします。
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プラーハのカルル橋の風景 |
この三国の中では、プラーハの町が一番賑やかでした。人々も良く動き活発だと言う印象があります。訪れる観光客の多さにも驚かされました。しかし同時に観光客ずれした狡賢い人達の町という印象も強く、その点ワルシャワのポーランド人とは対照的です。街頭に沢山のキャッチセールスマンが入場券の販売に精を出していました。私もその一つを買って市民会館の地下ホールで開かれた The Best of Mozart という音楽会を訪ねました。鬘をかぶり・当時の服装と思われる衣装をつけ雰囲気のある室内楽でしたが、音楽はひどい出来で、入場料の高さを思うと羊頭狗肉の商売と言わざるをえません。レストランでも似たような印象があり、“資本主義の悪い面も沢山受け継いだ国チェコ”というのが私の感想です。
幸いな事にドボルザークホールで開かれるチェコフィル(指揮・Zdenek Macal)の音楽会、それもシーズン幕開けのプログラムを聞く事が出来ました。冒頭に現代チェコを代表する作曲家Otmar Machaのボヘミア交響曲の初演があり、ボヘミア地方に中世から伝わる民謡を素材にした曲でした。偶々隣に座った人がロンドンで音楽(作曲)を教えている男だったのですが、この曲をさして「ジョーンウイリアムス(アメリカの映画音楽の作曲家)とプロコフィエフ、リムスキーコルサコフの3人を混ぜ合わせたような音楽だ」と評していました。演奏後83歳になる作曲家がステージから挨拶をしましたが、大変な人気です。続いてリストのピアノ協奏曲1番、そして最後がブラームスの交響曲1番でした。
チェコフィルは大変美しい音色の素晴らしいオーケストラでしたが、期待していたような“チェコの音色”という感じではなく、“国際化された一級の一般的なオーケストラ”という印象です。音色が柔らかく明るいので、ブラームスではN協の方が重厚でドイツ的な響きのように感じられました。その一つの理由には2管編成とやゝ小規模な演奏だった事もあると思います。しかし第一ヴァイオリンが15人なのにコントラバスが8人も居る為、低音部が誇張され不自然な感じがしたのは残念です。
リストを弾いたピアニスト(Peter Jablonski)はスウエーデン出身・34歳の男性。私は知らない人ですが、音が美しく又音楽のスケールも大きく、素晴らしい演奏でした。数日前に聞いたショパンコンクール入賞者の演奏が、まだ若く道半ばの演奏だと感じたのに対し、こちらは出来上がった大人の音楽だというのが感想です。ドボルザークホールは客席が縦に長く・天井も高く、響きの良いホールです。内装が特に美しく、けばけばしさの無い品の良いホールでのコンサートは大満足の一夜でした。
ハンガリーの首都ブダペストに着いたのは10月31日(月)なのですが、万聖節というカトリックの祝日の真最中。四日間の連休という事で、町の人々の生活ぶりについては、あまり接触する機会がありませんでした。しかし19世紀にはオーストリア・ハンガリー帝国として名声を馳せた国だけあり、建造物の美しさ・見事さには目を瞠るものがありました。
そしてフォアグラ料理(Libamaj)です。ちまちました切り身ではなく大きなステーキが出てくるのですが、周りはしっかり焼けているのに中の方はほわーっとしていて溶ろけるようでした。この国のフォアグラとスープ(Gulyas)とは本当に素晴らしい。安くて美味しくてお勧めです。又ウニクムという香りの強い薬用酒(アルコール度38度。46種類のハーブとスパイスとを配合しているという)もすっかりやみ付きになり、目下寝酒として愛用しています。
今回は前半が5人での車の旅、後半は2人だけの列車での旅と変化に富み・季節や天候にも恵まれ、美しく彩られた秋の田園風景を満喫する事が出来ました。ポルトガルの田舎と較べると、ずっと豊かだなという感じがします。赤色の土地が多いポルトガルとは異なり土が黒く土地が豊かそうですし、家の作りがずっと立派でしっかりしています。林が多く“豊かな大地”という言葉に相応しい地域でした。( 2005年11月・ 征二)