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ポルトガル便り・18便  今様物語

  “今様”もしくは“今様歌合せ”という日本の伝統芸能をご存知でしょうか。平安時代の後期に大変流行しましたが、その後衰退して長い間殆んどすたれていたようですから、ご存知の方は少ないかもしれません。
  現在京都で活動している今様のグループ(日本今様謌舞楽会)がこの11月末にポルトガルに来て、カスカイス市で自主公演を行いました。実はこの会の家元が私の高校時代の友人で、昨年の春に「貴女が居る間に一度遊びに行きたいな。ポルトガルで今様の公演が出来たら嬉しい。」という話がありました。その話をこちらに25年以上住んでいる友人に相談したところ、「会場を借りられると思うよ。」と言ってくださったのがそもそもの始まりです。カスカイス市はポルトガルの中でも特に豊かで賑わいのあるリゾート地域ですが、その文化センターで公演が出来るかもしれないという願ってもない話なので、私達も大変興奮して準備を始めました。今年の春一時帰国した時には京都まで足を伸ばして打ち合わせを行い、いよいよ行動開始です。
  会場が借りられるとしても、ポルトガルの方々に見て貰い・楽しみ又理解して貰う為には、それなりの努力と工夫が必要です。幸い司会・プログラムのポルトガル語への翻訳・ポルトガル人による詩の朗読など沢山の方々が協力して下さる事になり、着々と準備が進みだしました。ただ今様は日本でもあまり知られておらず、長い間すたれていたものを近年再興した芸能だけに、資料も乏しく私達自身も知らない事が多く、外国人に日本を正しく知って貰うことの難しさを改めて感じました。偶々この今様が最も盛んで、後白河法皇が梁塵秘抄を編纂された12世紀という時代が、ポルトガルの建国(1139年)の時期に一致しているので、この事をチラシのキャッチフレーズとして採用し人集めのキーワードとしました。夫もパソコンの操作には疎いのですが、スキャンマシーンを購入して写真を取り込む事を覚えたりして、チラシやプログラムの作成に熱を入れてくれました。また日本の大学の教授で一年間ポルトガルに派遣で来られた方が居らして、15〜16世紀にポルトガル人が日本に与えた影響などについてエッセイを纏めて下さったので、予想以上の出来栄えのプログラムに成りました。
  ところが出発する前になって、今様のメンバーで尺八を吹く方と琴を弾く方とが急に旅行が出来なくなりました。急遽夫の学生時代の友人で現在は琴古流の師範をされている尺八の名手の方に特別参加を願ったり、又会場の利用について市の文化局と若干のトラブルが有ったりと、最後までひやひやさせられる出来事も有るなかで本番の日が近づきました。
  団員19名が到着した翌日には、ポルトガルを代表するホテルであるホテルパラシオのオーナーのご好意でレセプションデイナーを開いて頂き、団員にとってこの旅行が一層思い出の深いものになったに違いありません。
  観客の動員というか働きかけは口コミ主体によるものです。私達の友人と私達がチラシを使ってお誘いするという範囲が殆んどですから、一体何人が当日会場へ足を運んで下さるのかこの点が最後まで残った心配の種でした。又通常ポルトガルでのこのような集りは大変時間にルーズで、その結果開催時間を30分も遅らせるという事がしょっちゅう有ります。勤勉な日本人としてはそのような事はしたくないと、開演前はそわそわ・どきどきです。ところが有り難い事に現実にはお客様の出足が好調で、用意した100席では足りなくなり慌てゝ補助席の椅子を出しましたがそれでも足りず、結果として壁際に沢山の人が立って見るほどの盛況でした。また時間についてもほぼ予定通りに開始出来ました。見ている方々も大変熱心で、1時間半程の舞台でしたが場内には心地よい緊張感が続き、平安の雅の世界を感じて頂けたように思います。
  さて当日の公演内容は次のようなものです。
1.梁塵秘抄から2曲を取り上げ、歌い舞う。
2.“歌合せ”
 左右2組に分かれた歌人が、その場で与えられた詠題にもとづき即興で歌を作り、出来栄えを競う。勝った人の歌をうたい舞う。
3.会場の人が作った歌の発表
 歌人が歌を作る間に会場の希望者にも色紙を配り、歌を作って貰いました。ポルトガル人でも日本通の方がいらして、日本語で七五調四節の歌を作って下さる方も居ましたし、その他にも沢山の方が創作に参加して下さり、時間不足で紹介できない歌も出るほどです。
4.カモンイスの詩“Os Lus_adas”を今様のやり方で歌い舞う。
 カモンイスは16世紀の詩人です。海路を開き東方へ進出するLus_adas(ポルトガル人)を讃えたこの長編の叙事詩は、ポルトガル人なら誰もが知っています。私の体操の先生に白拍子の衣装をつけ、詩の朗読で参加して頂きました。
  写真で見て頂くように舞台は赤と白を基調にした衣装が大変に美しく、ゆっくりした所作と相まってポルトガルの方々に優雅な印象を与えたようです。中には「源氏物語を読んでもその世界のイメージがなかなか描けなかったけれど、これで良くわかりました。」という感想を述べられた方もいて、源氏物語もろくに読んでいない私としては返答に窮する思いがしました。自分の国の事をよく勉強もせずに外国で生活すると、時々困る事があるものです。(2004年12月・孝江)

 
       
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