nitahara gallery

ポルトガル便り・14便  ご案内したいポルトガルの風景10選(その1)

  私達がポルトガルに住み始めてから、もう1年10ヶ月が過ぎました。正直に申し上げて、この間ポルトガル国内の旅行もあまりしていませんし、市内観光も殆どしていないので、こちらに来られた旅行者の中には私達よりもご存知の場所が沢山ある方がいらっしゃる事を認めざるを得ません。然しそれはそれとして矢張り住んだから判る事もあると思いますので、私達が気に入っているポルトガルの風景の紹介をさせて頂きます。2年後ぐらいにこの号の改訂版を作ろうと思いますが、その時にはどのような意見になっている事でしょうか。

1.ポルトガルの空と海(Ceu e Mar)
   私達が住んでいて、なんと居心地が良い所なのだろうと感じる秘密の第一は、この空と海にあると思います。    空が広いこと・高い事そして澄んだ青。心が広がって伸び伸びとしてきます。長い間に知らず知らずに貯まっていた人生の屈託が消えてゆくような気がしています。先日日本に戻り感じたのですが、都会のあの高層ビル。摩天楼などと呼んで喜んでいましたが、実はあれは人の心を閉ざしてしまうとんでもない仕掛けなのだとつくづく思いました。
   私達が住んでいる周辺には背の高いビルは見当たりません。リスボンに行っても 超高層ビルというほどのものは有りません。ですから空が実に広い。そして6月から9月までの季節は雨が殆ど降らず晴天の日が続くので、その広い青く澄んだ空の下にいるとワインが一層美味しくなる訳です。そして海の色がまた素晴らしい。マリーンブルーを基調として太陽の輝きで変化して、いろいろな顔を見せてくれます。冬の暖流の海は荒々しく、海岸線の崖に打ち寄せる波は20メートルもの波しぶきとなって飛び上がり、道路を走る車に襲いかゝります。一方夏の寒流の海は穏やかで眠気を誘い、そしてシーズンになると青い海に白く輝くヨットの数がどんどん増えてゆきます。私達も乗せてくれ! 又地中海のクルージングもしてみたい等と夢も膨らんできます。

2.モンサラス(Monsaraz)
   リスボンからほぼ東に向かって約200KM車で走るとスペインとの国境に着きます。昔は検問所が有ってパスポートのチェックなどをしていたようですが、今は何もありません。「ようこそスペインへ!」といった感じのたて看板を過ぎると、そこから先はスペインです。そう、東京都から千葉県に入ったといった感じでしょうか。    この国境近くにある町がモンサラスです。恐らく昔は防人の街だったのだと思われます。ムーア人との戦い・スペインとの国境争いを凌ぐ戦いなどに備え、ポルトガルの防人達が住んでいたのでしょう。広い平野の中に100メートルほどの小高い丘がぽつんと有って、城壁に囲まれた中に数百人の人が住んでいる集落・それがモンサラスです。
   この街の宿で朝を迎えると音が殆ど何もしない静けさの中で、遥か離れた鶏舎から「コケコッコー」の声が聞こえて来ます。見えるのは畑とオリーブの林そして川だけで、見渡す限り360度が地平線です。その広い空間を鶏の声が漂い流れてくる。日本的な幽玄とか無の世界とは異なりますが、何か生き物の有り方を教えてくれるような、又広い世界をそして地球の長い歴史を感じさせてくれるような時間です。
   この街にも然しホテル(正確にはエスタラージェン〔旅籠〕)があります。しかも四つ星です。部屋の数は10室程度。言ってみれば昔庄屋様のお屋敷だった所を改築してホテルと呼んでいるといった感じです。斜面に建っている部屋から朝食を摂る食堂まで、階段になった急坂を登らされます。
   辺境とも呼べるこの街に住むお年寄りは、写真にあるように中世を生きて来たに違いないと思わせる独特な雰囲気を持っています。

3. アルカスル・ド・サウ(Arcacer do sal)
   この町はリスボンから東南に約100KM。塩(Sal)の宮殿(Arc?er)と呼ばれる地名を持ち、紀元前5000年頃から人が住んでいたと言われます。昔は塩田があって特にローマ時代には塩の交易地として栄えたそうです。
   此処から約40KM離れたモンチモール・オ・ノーヴォからこの町に入ってくる田舎道を、私達は「こうのとり街道」と呼んでこよなく愛しています。途中は畑とコルク林の続く静かな田舎道なのですが、そこ此処にこうのとりの巣が有り、運が良いとこうのとりが高く空を舞っている美しい姿を見る事が出来ます。
  特にアルカスル近辺の街道には古く大きなユーカリの木が並ぶ所があって、そこが大好きでお客様が来られるとよくご案内しています。街道の片側は低い丘になっていて、もう片側は広い畑と水田です。水がきれいな川があり、此処に生息する田螺などの生き物がこうのとりの餌なのでしょう。渡り鳥のはずのこうのとりが此処には定住・群生しています。
   秋の夕暮れ時に行ったとき、収穫を終わった田んぼの野焼きをしているのに出あいました。広い畑には牛が放牧され、牛の周りに白鷺とこうの鳥が遊んでいる姿が野焼きの煙の中に浮かんでいます。丁度ヨーロッパ中世の風景画がそのまゝ目の前に展開されているようで強い印象を与えられました。
   このアルカスルの町の中心に、これも小高い丘の上にポウザーダ(国営のホテル)があるのですが、アフォンゾ三世(13世紀)の宮殿を改築したものです。中世に建てられた石の建造物ですからこれまた雰囲気満点と言えます。

4.エスピシェル岬( Cabo Espichel)
   我家から車で約1時間。これまた田舎の雰囲気に満ちた道を走った後に辿り着く、ぐっと海に突き出した岬です。ポルトガルの海岸線は砂浜がある所は少なく、この岬も切り立った高い崖で出来ています。
   ユーラシア大陸の西のはずれとしてはロカ岬が有名ですが、あそこは観光地として発展した為か、大陸の一番外れという言葉が持つ、荒れ果てた寂寥感をあまり与えてくれません。その点このエスピシェル岬は訪れる人も少なく、海に突き出した岬が持つ激しさ・荒々しさを感じさせてくれます。そして空と海です。目の前に広がる空の広さと海の大きさ。深く青い海の色。崖に叩きつける波の白さ。空中に舞う鳥や海の香りなど、自然に抱かれる雰囲気を満喫できます。但し時には身体ごと吹き飛ばされそうに成る程風が強い所なのに柵が一切無い。崖のふちの土は風化して脆くなっているので、いつ崩れ落ちても不思議は無いという恐ろしい所です。注意の立て札さえも無く、自己管理・自己責任の世界です。それだけ自然と対面し、自然を楽しむ事ができます。
   又この岬には教会がぽつんと立っています。船乗りの安全を祈る為のこの教会ではマリア様が中心で、キリストの像はその脇に飾られています。まさに田舎の町外れの教会で中は週末と祭日のみに点灯されます。その他の日は薄暗がりの中で、受付に編物をしているおばあさんが一人座っているだけです。然しその壁画・天井画は仲々の物で、色調と言いデッサンと言いかなり力量のある画家の手によるものと思われます。また隣接して修道院の宿舎が有ったのですが、こちらは今は廃墟となっています。表から見ると広く立派な建物なのですが、屋根は落ち・壁だけが残る姿は取り残された辺境の寂しさを伝えて、キリコの絵が思い出されます。 − 続く −

 
       
MENU