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ポルトガル便り・13便  所変われば品変わる。

 ポルトガルへ来て、矢張り日本とは違う所に住んでいるのだなと思う事がよくあります。それが外国に住む面白さなのですが、時にはどうしても同調できないような事も勿論出てきます。今回は“日本とは違うのだ”と感ずる部分をいくつかご紹介しましょう。
 こちらの人は雨が降り出しても干している洗濯物を取り入れない人が殆んどです。最初は「共働きで家を留守にしているのかな。教えてあげたいね。」と日本的な感覚で妻と話をしていたのですが、我が町パレーディでも、リスボンでも又地方に旅した先でも同じです。どしゃぶりと言えるほど強い雨足でも「一度干した洗濯物は、雨が降ったからといって取り入れてはならない。」という法律でも有るのかと思うほど、それは徹底しています。雨が降り出した為に干し物を取り入れている姿を見たのは、一年半経過した今の時点で一回だけです。一日中雨が降り続く事が少なく、降ったり晴れたりを繰り返すこの地の天候が、このような「濡れた物はそのうち乾くさ。」という生活習慣となったのかな等と考えています。

干し物と言えば、“他人の迷惑にはあまり気遣わない、自分のしたいようにする”という点にも驚きます。窓の下に物干しロープがついたアパートがあるのですが、シーツのような大物を干した為に、下の階の窓が塞がっている光景を見かける事があります。下に住んでいる人がこれを甘受している心境が判りにくいですね。“太陽の光で家具が傷む事を嫌うために雨戸を全開にしない家が多く、こちらの人は薄暗い生活に慣れていて、上の階の洗濯物で窓が塞がれても気にならない”という説明もあります。ファドで歌われているように“待つこと”・“耐える事”はポルトガル人の特技の一つなのかも知れません。自分の権利を主張する事と気長に待つ事との間の微妙なバランスについては、郵便局窓口でのやりとりと後ろの行列や駐車する先行車を待つ時の後続車の行列など到る所で経験をしていますが、慣れるのにはまだ時間が掛かりそうです。
 私達が住んでいるパレーディの街には、小さな砂浜の海岸が有り、夏場は海水浴客で結構賑わいます。〔注・ポルトガルの海岸線は断崖の岩場が多く、砂浜を持つ海岸は少ない。〕夏は寒流の為に海水は冷たく泳ぐ人は少ないのですが、砂浜で甲羅干しをする人たちは多く、その姿を見るのも楽しみの一つです。若しかしたら今は日本でも普通になっているかもしれませんが、海水浴客の中に必ずと言ってよいほどトップレスの女性が混じっています。さすがにスタイルには自信があるのでしょう。その多くが素晴らしいプロポーションの持ち主で、煙草を吸いながら談笑したり・寝そべったりと、ごく普通に海水浴客の中に溶け込んでいます。昨年は小さな子供と球遊びに興じるトップレス姿の若いお母さんの姿も見られ、それは美しくエロテイックな世界でした。又その中にはおじいさん・おばあさんの姿も沢山あります。夏の間に太陽をいっぱい浴びる事で冬の健康が保障されると信じているらしく、彼らは日光浴にとても熱心です。おばあさん達が何重にも重なったお腹を惜しげもなく曝し、ビキニ姿で嬉々としているさまは、ほっとするような田舎の海岸風景です。
 ところでビキニ姿のおばあさんに対抗するおじいさんはどうかと言えば、これはもう井戸端会議です。この国の男性・特に年寄りは実におしゃべりが好きです。海岸は勿論ですが道路に面した喫茶店というかバールと呼ばれるお店を朝から占領して、50−100円のコーヒー杯で何を一体と思うほど長い時間、熱心に男の井戸端会議が続いています。この爺さん達がEUのあるべき姿を論じているとは思えません。「男は寡黙をもって良しとする国」で育った人間にはどうしても理解できないところです。
 さてリスボンの町なかにシネマテッカ・別名“映画の博物館”という名画座があります。さすがに欧州にある名画座だけあってフランス・ドイツ・イタリアそしてアメリカなどの国の古き良き時代の映画が沢山上映され嬉しい悲鳴をあげたくなります。ところがその多くが夜の9時半とか10時に上映開始され終わるのが真夜中。車で帰れば30分だと言っても、家に着いてポルトワインを飲みながら余韻を楽しんでいるとすぐに2時とか3時になってしまい、日頃10時には床についている生活のリズムがすっかり狂ってしまいます。昨日は“第三の男”・一昨夜は“マクベス”とオーソンウェルスの特集が続きました。実は今夜もやはりウエルスの「審判(原作はカフカ)」が予定されていました。開演30分前の9時30分に映画館に着いたのですが、なんと満席で入場券を売ってくれない。「立ち見でも良いから。」と頼んだのですが受け付けて貰えず、すごすごと帰る破目となりました。東京の満員電車を経験していない彼らには、“押し込める”という発想が理解出来ないようです。此処にも“待つ・耐える文化”が健在でした。
 入場料2.5ユーロ(約325円)でゆったりとしたふかふかの椅子で楽しめるあたりは、昔通った新宿名画座とは随分違いますね。但しお客が少ないので各出し物は一回か精々二回の上映機会しかなく、偶々都合が悪ければ諦めるしかありません。その代わりに毎月100本を越える名画が上映されています。問題はイタリー語やフランス語で話されポルトガル語の字幕スーパーという訳ですから、知らない映画は勿論のこと・過去に見たけれど内容が思い出せない映画の場合には皆目判らない事となり、想像力・推測力を目一杯働かせることになります。老化防止には役に立つことでしょう。〔先日見た小津安二郎監督の“おはよう”という映画は、日本語で話されフランス語の字幕スーパーでしたが、見ていたポルトガル人が的確な反応をしたのには驚きました。生活感覚の中に古い日本人と共通するものを持っていると言えるかもしれませんね。〕
 最後に年金の話です。先日新聞を見ると、今年の年金には4%のインフレ是正が行われると書いてありました。しかもこの国では年金にボーナスまで出るのですよ。(年間14ヶ月分が支給される。)年金の額も働いていた時に手にする給料に較べ悪くないレベルのようです。経済力が弱くEUの問題児と言われているポルトガルがこういう政策を取るのです。国がゆったりとした雰囲気に包まれている理由が判るような気がします。将来の展望が心配でいらいらしている経済大国の皆さん・そして小泉首相はこの事をどう受けとめるのでしょうか?( 征 二 )

 
       
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