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ポルトガル便り・12便  暖かな心に触れて

  いよいよ師走に入り今年も残り少なくなって参りました。こちらでも11月後半には街路樹の剪定が始まりすっきりしたかと思うと、街々それぞれに趣向を凝らしたクリスマスの飾り付けが始まり、イルミネーションも奇麗に輝き始めました。カスカイス市では今年のテーマは流星らしく、去年より垢抜けた・一寸グレードアップした飾りのように思います。一年前には見かけなかった事ですが、我が家の近くのスーパーでもクリスマスソングが流れ・店員さんがサンタさんの帽子をかぶり、クリスマスムードを盛り上げる演出がなされています。これもEU加盟の影響かしらとも思われます。
   ポルトガル人に言わせると、「EU加盟によって良くなった点も有るけれど物価は高くなり(我が町パレーデイと終点カスカイス間の電車賃は1年半の間に4回も値上げされた。)、果物や野菜も見栄えは良くなったが美味しくなくなった。犯罪も増えてきて住み難くなった。」と嘆きます。私達も安いと思っていた食料品まで徐々に高くなって来ている事を実感していますが、それでも未だ住み易い・人の暖かさを感じる良い国だと思っています。
  まず家族の結びつきが強く若い人とお年寄りがとても仲が良い事に感心します。家族中で子供を可愛がり、又夫婦共働きが多いので子供の学校の送り迎え(大きな子供でも)は、年寄りの仕事です。お孫さんと買い物をしたり、孫と手をつないで楽しそうに散歩するおじいさん・おばあさんの姿をよく見かけます。その姿が夕焼けの空にシルエットで浮かんだりしたらジーンときます。また道を聞けば親切に教えてくれますし、人によっては近くまで連れていってくれます。私が小さかった頃の田舎(岡山県津山市)の人々の営みを思い出させてくれます。夫は音楽会へ行くことを何よりの楽しみにしていますが、12月に入ると催し物が少なくなり、クリスマス前後は全く有りません。係りの人に質問すると「クリスマスは家族で過ごすものだよ」と言われてしまいました。
 先日こんな光景を見ました。私がプラットホームで電車が来るのを待っている時です。乳母車に双子の赤ちゃん(男の子)を乗せたお母さんが来ました。急に一人の赤ちゃんが泣き出しました。そうすると近くに居た人達が寄って来て何か言うのですが、お母さんには話が通じません。そのうち一人のおばあさんが自分のオッパイを指さして「ミルクはあるのか? お腹が空いているのではないか?」とジェスチャーで示します。その真剣で身振りの大きい事・・・・・。「持ってるよ。」とお母さんも動作で示しますと、「あ−。それなら良かった。」とホッとした様子です。(その顔が又とても良いのです。)そこに二人の子供を連れた女性がやって来ました。その中学生ぐらいの女の子は英語が話せるので、双子のお母さんとの通訳をかって出ました。(サラザール独裁政権〔1932―1968年〕の時には意図的に教育を軽んじたようですが、今の若い人には英語教育も熱心です。)それによると赤ちゃんのお母さんはイギリスから来てまだ日が浅いのでポルトガル語は判らない。赤ちゃんは生後5ヶ月との事のようでした。
  「一寸抱っこさせて貰っていゝ?」「どうぞ。」と抱いている赤ちゃんを渡し、お母さんは釣られて泣き始めたもう一人の赤ちゃんを抱っこします。周囲の人々も遠巻きにその様子を見ています。さっきのおばあさんも少し離れた所でニコニコしています。電車が来ました。見守っていた人達が当然のように協力して電車の中に乳母車を運びます。その後お母さんは座席に座り一人の赤ちゃんにミルクを与え始めます。もう一人の赤ちゃんは親子連れのお母さんに抱っこされ、中学生にあやして貰っています。小学生の弟は一寸バツが悪そうな戸惑った様子で赤ちゃんとお姉さんとを見ています。終点まで10分一寸でしたが、周囲の雰囲気は暖かい空気に包まれていました。
  日本から届くニュースは暗い不安になるような材料ばかりで少々滅入っていた私は、この光景に出会いほのぼのと幸せな気持ちにさせて貰いました。こゝポルトガルはEUのお荷物的な存在で経済的にも色々な問題が有るようですが、日々の生活はゆったりと流れ、そここゝでの人々の触れ合いを見るにつけ、私達夫婦は心なごまされ豊かな気持ちにさせて貰っています。日本でもきっと心温まる出来事や出会いが繰り返されている事でしょうが、時間に追われ・親切にされる事を警戒し「知らない人には付いて行ってはいけない」と子供に教えなければならない現実・人を心から信じる事が出来なくなっている現実に戸惑いや寂しさを感じます。マスコミも暗く不安を募る報道だけでなく、心の温まる出来事を積極的に見つけ取り上げて欲しいと、遠く離れていると特に思います。  来年は明るい事の多い年になりますように願っております。 ( 孝 江 )

 
       
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